槍ヶ岳から笠ヶ岳縦走
2012.08

その3

 8月24日

最初に書いておくが、この日は私のいままでの山行では経験したことのない試練の連続であった。若干汚い話というか、ほぼ汚い話が中心なので覚悟の上(?)読んでいただきたい。

朝、3時に目が覚めたので、外を見ると満天の星空。今日も快晴が期待できる。ご来光を楽しみたいので早めに食事を済ませることにした。昨日ラーメンで飽きたので、これも16年前に試したチョコフレークとスキムミルクの組み合わせ。スティックタイプの使いきりスキムミルクが近所のスーパーにはなかったので、袋タイプのものを買い自分で小分けしたのだが、これがそもそもいけなった。お湯を沸かし、スキムミルクを入れて溶いたとき、嫌なにおいがした。なんだろう、オエ!という感じ。でも、朝は食べなきゃと無理やり胃に流し込んだ。濃すぎてすぐに水を飲んだ。要するに、スキムミルクの量が多すぎたのだ。そういえば、小分けにしたときに紅茶と一緒に飲むように大目に小分けをしたことを後になって思い出した。やはりボケている。

テントの外に出ると東の空が次第に明るくなってくる。カメラを持ってずっと待っていると、槍ヶ岳で御来光を拝むために登る登山者のヘッドランプが良く見える。100m以上照射してるのでは?と思うような光も見えた。さながら夜のパチンコ屋の夜空を照らす照明みたいだ。これは装備更改せねば。でも、このヘッドランプも20年使った思い出のヘッドランプなんだよね。5時10分、待ちに待った御来光。日常生活をしていて太陽が昇ってうれしいと感じることはほぼないのに、いつもながら不思議に思う。場所が変われば、同じもの見てもこんなにありがたがるんだから、人間はやっぱり勝手?



十分に御来光を楽しんでテントに戻ると、もよおしてきた。ババ平のトイレはひどいトイレだったし、上高地でもしていなかったので、2日分溜め込んでいたことになる。トイレに入り、すっきりしたので、パッキングをし、テントサイトを後にした。テントの札を返却したあと、またトイレに行きたくなる。まあ、こんなこともあるだろう。この程度だった。西鎌尾根を下りはじめたところで、やたらとが出るようになった。それも腸の奥から出てくる嫌な感じの屁である。時間もあるので、本当であれば、ここで引き返すべきだった。だが、あまり気にせず、よーけ、屁が出るなあ程度しか思っていなかった。が、千丈沢乗越へ1/5ほど下ったところで、下腹部が急に痛くなった。はっ、これはまずい。さらに屁が出る寸前だ。だが、この屁はしてはいけない屁だ!周囲を見渡すと先行者も後ろから来る登山者もいない。幸い、飛騨乗越側に身を隠せる草付があったので駆け込んだ。予想どおり、下痢だった。なんてこったい、山で下痢なんて。よりにもよってこんな岩だらけの稜線のところで。あ〜、やばいわ〜と思いながら、ふと自分の右側を見ると私がキジウチしたすぐ横になんと誰かのパンツがチリ紙と共に脱ぎ捨ててあった。ああ、この人はきっとモラしてしまったんだろな・・・と己の末路と姿をダブらせたが、しかし、いくらなんでもパンツまで捨てたらあかんやろ。。。気持ちは分かるけど。

ここで、行こうか戻ろうか迷ったが、あまりこのような経験が無かったので、ネタにもなるし、どうせすぐにおさまるだろうとそのまま足を進めた。が、またもや、下腹部が痛くなり、屁が出そうになる。これは拷問だ。屁というか、開放したい欲求をひたすら我慢をしながら下り、ハイマツの奥や谷側に下降してキジウチできる場所をキョロキョロしながら探しながら歩くのだから辛いったらもうなんと表現してよいのやら。千丈沢側は切れ落ちているので、水鉛谷のほうに下りてキジウチ、この連続。はあ、もう辛い。

さらに、こういうことが続くと水が飲めなくなる。さらにレーションも食べられなくなる。下痢が続く恐怖のためだ。風邪薬やテーピングはあるが、下痢止めなんて持っていなかった。テーピングで蓋してもアカンし、もうどうすりゃいいの状態。食べれない、飲めないのダブルパンチも加わってすっかりバテてきた。この時点で次の目標は双六のキャンプ場というよりも「双六小屋の便所」になった。さらに診療所もあるだろうからここに駆け込もうと決め、そこからは地形を見ながら隠れられそうな場所を見つけては定期的にキジウチ体制に入ることにした。結局双六に着くまで5回ほど急性下痢の悪夢と戦うこととなった。ウェストポーチにテッシュを2つ用意しておいて本当によかった。駅前のテッシュ配りに感謝。

しかし、これだけでは終わらなかった。歩きながらキジ場を探してキョロキョロ遠くばかり見ていたせいもあるだろう。根っこに右足をひっかけて前のめりに転倒した。こんなことも初めての経験だ。危ない危ない。場所が場所ならお陀仏だ。さらに浮石に乗ってバランスを崩すことが何度かあった。リカバリーで踏ん張った際に足の小指が激しく痛んだ。爪がめくれたかもしれないと思ったが、見ると辛いので、そのまま我慢することにした。もう踏んだりけったり。樅沢岳への登りはもう脂汗かきまくり。樅沢の下りから双六小屋が見えたときは、気が緩んで思わずあぶなかった。明日は笠ヶ岳の予定だったが、こんなんじゃとても無理!明日は下山しようと心に決めながら歩いた。


そんなわけで双六小屋への下りは20分で下りられるところを40分かけて慎重に慎重に下りた。下痢はすでに止まっていた。一体なんだったのだろうか。念のためと思い、富山大学の診療所に行ってみることにした。声をかけたが誰もいない。ベルを鳴らしたけども、誰も出てこない。おいおい、意味ないじゃん。ドラマでかっこよく演出していたんじゃないのー。槍ヶ岳で牛丼食べていたとき、横にいた医師の人から「山の診療所では簡易手当てくらいしか出来ないから、医者は登山に出かけて診療は学生任せが多いよ。」という話を聞いていたが、本当だったのか。やれやれ。いや、もっと悪くないか、誰もいないって。まあ、仕方ねーか。

わりとあっさりあきらめがついたので、あとは自分で治すしかないと腹をくくった。テントを設営し、すぐに熱いお茶を2杯飲んだ。どきどきしながらテントの中で待機。まてどくらせど・・・あれ、こない・・・。おお、どうやらおさまったようだ。いったいなんだったのだろうか。次は足だ。靴下を脱いで見ると足の指が2本小さく内出血していた。幸い爪ははがれていなかったが、すこし浮いていたので、テーピングで押さえておいた。テーピングは16年前のものだったが、十分使えた。すごいぞ、J&J。って古いすぎるわな。

しばらく横になって休んでいると、腹が減ってきた。
お、これはもう大丈夫と確信。(早すぎ?)昨日牛丼を食べたので、カレーにした。800円なり。下痢で散々な体験をしておいてカレーを注文する俺の神経も相当にどうかしてると食べ終わってから思った。

腹のほうはまったく異常なし。食後テントに戻り、蜆の吸い物を飲んだ。これはおいしかった。別に二日酔いになったわけではないが、なんとなく飲みたかったのだ。これは非常によかった。

あの下痢はスキムミルクによる急性下痢だったんだと判断し、予定どおりの夕食メニューを作ることにした。今日はペンネのガーリックトマト味。考えてみると、胃には負担のかかるものばかり。急性だったからよかったものの、これがそうではなかったら、すこし体調が悪いとき用に食べるものも考えておかねばなるまいなと思った。

ガーリックトマトソースはオーマイの製品。フライドガーリックとパセリがついている。フライドガーリックは乾燥しすぎなところが残念。それ以外はGOOD。これは愛用したい一品。ただ、コッヘルが汚れるので掃除の際には先にペーパーで拭いてから洗えばOK。


夕方から雨が降り出した。すぐに止むだろうとの予想ははずれた。17時ごろから雷も鳴り出した。やれやれと思ってシュラフにもぐりながら横になっていると、上から水滴が垂れてくる。あれ?よく見ると目止めのところから水が垂れてきているではないか。やや!と思って回りをみると同じように目止めのところから浸水しているではないか!汗拭き用タオルを使って急遽、テント内の拭き掃除をすることになった。すぐにタオルは水で一杯になる。なんどかしぼって雨が止むのをまった。今日は下痢に続き、今度は浸水かとトホホな気分だったが、このテントも20年の付き合いだ。そろそろ更改の時期かなとしみじみ。

ようやく雨も上がった。テントサイトでは遅い夕食を作っているグループがたくさんいたが、その中でやたらとジュージュー音を立てて調理している人がいた。テントの外に火器を置き、手と箸しか見えないので余計に気になる。私のテントの周りからも「ねえ、何作ってるんだろう、気になるよね」という声が多数。私個人的には彼を「Mr.ジュージュー」と命名し、トイレにいくふりをしてこっそり彼のテントの横を通ってみた。なんと、もやしを炒めていた。足の速い野菜をわざわざ持ってきたなあーと思ったがもしかして見間違いだったのだろうか。気になる・・・。



あー、それにしても今日もいろいろなことがあったなー。下痢するわ、コケるわ、雨も降るし、浸水するし。さて、寝るかとシュラフに入る。・・・お目目パッチリ。今度はなぜか全然眠れない。あれ?おかしいな。気になると余計に眠れない。ラジオでも聞くかとスイッチをひねるが面白そうなのがやっておらず、すぐに切った。テントの設営が悪かったかなと頭の位置を何度か変えて目を閉じてみたが、どういうわけかまったく眠れない。こんなことは初めてだ。蜆汁のせいか?と思ったが、はてさて。時計を見たら12時。もう一度目を閉じてみたが、ダメ。これはダメだ。あきらめようと思ったら、いつの間にか落ちたようで、翌朝は隣のテントのアラーム音で4時に目が覚めた。とりあえず、4時間寝てるからなんとかなるだろうと腹をくくった。

その4へ続く
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